topTOP インタビュー 「何もしない人」の生き方・働き方 レンタルなんもしない人(36歳)

「何もしない人」の生き方・働き方
 レンタルなんもしない人(36歳)

インタビュー 2019.12.09

「なんもしない人(僕)を貸し出します。飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます」。

何もしない、ただ1人の人間の存在を貸し出す。
2018年6月、Twitterでそんな活動を始めたところ、人気を呼び、利用者が殺到。
フォロワーは約25万人まで増え、テレビや雑誌、WEB媒体など様々なメディアで取り上げられ、活動に関する書籍も出版された。

賛否を呼ぶこともあるが、行っている本人はどんな気持ちでサービスを行い、これまでどんな人生を歩んできたのか。

これまでの人生を、「向いていると思ったことさえ続かないなって。『もう何もしたくない』とずっと思っていました」と振り返る。

そして、「下には下がいるって考え方が好きなんですよ。僕が下になっているイメージです。僕が楽しく自己中心的に生きている姿を見て、無理をして生きづらさを感じている人が楽になればいいと思っています」とも話した。

 

経歴

1983年生まれ。大阪大学の理学部物理学科に入学。大学院を卒業後、教材の編集などを行う出版社に入社したが、数年で退職。その後、様々なことに挑戦するも長続きせず、「もう何もしたくない」と思っていた。そんな中、プロ奢ラレヤーさんを見て、「レンタルなんもしない人」を思いつく。これまでに1500人以上から依頼を受けた。
「レンタルなんもしない人(1)(モーニングKC)」(講談社)、『〈レンタルなんもしない人〉というサービスをはじめます。』(河出書房新社)、「レンタルなんもしない人のなんもしなかった話」(晶文社)などの書籍を発売中。

「レンタルなんもしない人は、利用者の解釈次第でどうにでもなる」

―これまで無料だった活動を最近有料(1万円)に。どうしてでしょう?

その時の衝動でなんとなく、ですね。
そもそも、この活動を始めたのも、プロ奢ラレヤーさんを見て、「すごく面白い」と思って、何も考えずに衝動的に始めました。
始めないとソワソワしたというか…。
それに近い感覚です。

「なんもしない人の需要があるのは、結局タダだからだよね」と言われることがあって、それに対して僕も「確かにそうかもしれない」と思っていました。「お金を取ってみたらどうなるのかな?」と気になっていたことも要因の一つかもしれません。

 

―現在大体何件くらいの依頼をこなしているのですか?

1日3~4件くらいで、多い日には5件くらいをこなします。

 

―結構多いですね…。大変ではないですか?

いえ、そんなに大変ではありません。
会社に行っている時は、毎朝起きるのがしんどくて、世界がくすんで灰色でしたが、今はこれだけ忙しい日々が続いているのに、ストレスがあまりありません。
ただ、油断すると体力的にしんどくなる時はありますが、それは向いている仕事をやっている人の悩みだと思うので、深刻には考えていません。

 

―心がけていることは何かありますか?

自然に湧いてきた感情をあまり隠さないようにしています。
この活動は“実験”の一種だと思っていて、活動の反響は、ネガティブなものもポジティブなものも含めて、1つ1つ観察をしています。
観察の中には、周りの人たちの反応だけでなく、活動をしている自分自身の感情も含まれています。
だから、自分の感情を素直に露出させて残すということをしています。
我慢してしまうと、何かしている感じがするので。

 

―この活動をしていて、挫折しそうになったことや困難さを感じたことはありませんか?

ありませんね。
依頼が来て、「これ難しそうだな」と思えば、即断ります。
「難しいことはしない」をずっと続けているので、難しいことは現れません。

 

―先ほど、レンタルさんの需要についてのお話が出ました。どうしてここまで人気が出たのでしょうか?

一括りにはできません。
依頼の理由は多岐にわたっていて、例えばこれまでに「普段の人間関係で解消できない」や「既存のサービスで解消できない」などがありました。

まとめると何らかの言葉にできると思いますが、「どういう欲求が多いのか」と僕が言ってしまうことによって、そういう欲求に基づいた依頼者に限定されてしまうのが嫌なので、やはり言葉にはできません。

「レンタルなんもしない人はこういうものだ」と思われると、それ以外の部分を求めている人がいたとしても、サービスを使わないかもしれません。
それは非常に勿体ないので、すみません。

 

―レンタルさんという存在は依頼者の解釈に託している?

そうですね。
利用される方の解釈次第でどうにでもなります。

かなり陳腐なたとえになってしまいますが、「鏡」のようなものです。
当たり前ですが、鏡自体が何かを主張して見せるわけではないので、鏡は映る人によって変わります。
現在、世にあるサービスは、「こういうものを提供します」というものばかりじゃないですか?

例えば、「家事代行サービス」で言えば、家事が綺麗に終わるという、想定できるポジティブな現象があります。嬉しいかどうかでいえば嬉しいですが、面白いかどうかで言えばそんなでもありません。

僕のやっている活動は、想定外のことがたくさんあります。
まだ想定していないものもあるかもしれません。ちょっとワクワクする感覚があります。

 

「向いている」と思ったことさえ続かない。「もう何もしたくない」と思っていた。

―レンタルさんのこれまでの人生についてお伺いさせてください。どんな小学生でしたか?

地元の公立小学校に進学しましたが、1年生の時に特定の場所や状況で話すことができなくなる「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」のようになってしまいました。
診断を受けていないので、本当にそうだったかは分からないですが。

ごく一部のよく知っている友人と家族以外には何も話せない、クラスの中では一言も喋らない子どもでした。
目立ちたくないと思っていましたが、喋らないから逆に目立ってしまっていました。
物理的にいじめられたわけではありませんが、「何か喋れや」みたいに言われていた嫌な記憶があります。

ただ、3年生のクラス替えをきっかけに突然喋れるようになったので、3年生からは普通に友達がたくさんいて、楽しい小学生でした。

中学生になると、アトピーが酷くなりました。
見られたくないので隠そうと結構頑張っていて、外をランニングする授業では、萌え袖のように隠して走っていました。
人間関係での悩みはありませんでしたが、自分の容姿にコンプレックスがあって、時期によっては学校に行きたくないという日もありましたね。

 

―高校時代はどんな生活を送っていたのでしょうか?

高校は地元の公立高校ではなく、少し離れた進学校に行きました。
すでにコミュニティが出来上がっていたので、馴染みにくかった印象があります。もともと自分から話しかけるタイプではなかったので、そんなに友達は多くありませんでしたが、勉強には集中できました。

その後、大阪大学の理学部物理学科に進学。
周りから「あまり先を見据えた選択ではない」「それ勉強して将来どうなるの?」などと言われましたが、僕は「面白いから物理の勉強をしたい」と思っていたので進学しました。
でも、入学してみると、周りの人たちが凄すぎて自分に物理は無理だと感じてしまい、惰性で生きていました。

 

―その後、大学院にも進学し、就職。就職はどんな業界にしたのでしょうか?

大学1年生の頃から、塾の講師のアルバイトをしていて、その経験をアピールできる教育系の出版社に就職しました。
最初に内定が出たところですし、大手でホワイトそうだったので、もうそれ以上就職活動をするのが面倒で、そこに決めました。

3年くらいその会社で働きましたが、結局辛くて退職しました。
人間関係のしんどさと仕事面でのしんどさの2つが大きかったですね。
特に仕事面では、同じことを繰り返しやることに、すぐに飽きてしまいました。

でも、これは自分の妄想というか都合の良い思い込みも入っていると思います。

現実的には、仕事があまりできていませんでした。
目の前の仕事に黙々と向かう単純作業ならできますが、他の部署と連携を取りながら察して動くといったことが求められる仕事は特にできませんでした。
あまり会社に貢献できている気がしなかったというのもあります。

―新卒で入社された会社を退職された後はどうしたのですか?

コピーライターの養成講座に通ったり、編集プロダクションに再就職したりしましたが、どれも長続きはしませんでした。
「自分は書く仕事に向いているんじゃないか」と思い、ブログを書いている時期もありましたが、「100日連続で書いたこと」と「ある1記事がバズったこと」の2つに、満足して辞めてしまいました。

向いていると思った書くことさえ続かないなって。
「もう何もしたくない」とずっと思っていました。

ブログに満足してから半年間くらいは、ゴロゴロしたり散歩したり寝たりしていましたね。
「何もしたくない」と思っていた時期に、プロ奢ラレヤーさんのことを知りました。

それまでの人生で一番面白い人だなと思いました。
その人を見て、「これまでの人生から自分は何もしない方が向いているのだろう」と思い、この活動を始めました。

自分は何もしたくない。
この人も何もしないで生きている。こういう風に自分も生きられたらいいなと強く思っていました。
そこから2週間くらいで今の活動を始めました。

 

「僕が楽しく自己中心的に自分のことを考えて生きていたら、同じ思いを持っている人も生きやすいと思うんですよ」

―Twitterで利用した人の声を見ていて、「レンタルさんを利用して良かった」というポジティブな感想が多いですよね。「どんな生き方も肯定される」というレンタルさんの人間性が、利用者から支持を浴びているのではないか、と個人的に感じました。レンタルさんはそうしたことを考えることはありますか?

僕は「下には下がいる」という考え方が好きです。
僕が「下には下がいる」の下になってあほなことをしていれば、他のあほなことをしたい人もやりやすくなるじゃないですか。

それの延長で、僕が楽しく自己中心的に自分のことを考えて生きていたら、同じ思いを持っている人もやりやすい、生きやすいと思うんですよ。
そういうことを考えるときは少しあります。

誰かが無理していることによってかろうじて成り立っている世界があって、逆に誰かが無理しないようにすると、抜け駆けみたいになってしまいますよね。
皆が無理している状況で、自分だけ無理しないようにしようとするのは難しいと思うので、僕が無理しないことを率先してやっています。

 

―「何もしないがめちゃめちゃ上手。気を遣わずに振舞ってくれる」という感想もありました。何か気をつけていることはありますか?

別に気を使ってないですよ。僕は何もしないだけです。
「何もしない割には喋ってくれますね」とたまに言われますが、カウンターをしているだけです。
質問が飛んできて無視するってストレスじゃないですか。
質問が飛んで来たら、それなりに答えるというだけです。

多分、使ってくれる人が、寛容なだけだと思います。
僕の活動自体がピンとこない人も多いですし、「自分は使う気になれない」や「分かるけど嫌いだ」という人も多いですよ。

だから、自分の解釈で、こういう新しいサービスを受け入れているので、ポジティブな感想が多いのではないかと感じています。
僕がそういう能力に長けているわけではないと思います。

 

―サービスを始められた前と後で、何か変化はありましたか?

色々な人の価値観に触れて、自分自身の価値観も耕されていきましたね。
その中で、自分の本当の気持ちや欲望に向き合えるようになった感じがしています。

僕は、「何もしたくない」という欲望が一番強いですが、それと並行して「自分の好きなように生きたい」という気持ちもあります。完全に自分のエゴですが。

そうしたものを、今まであまり出してはいけないと思っていましたが、それを封じ込める必要はあるのかな?と最近感じています。

どうしてそう思ったかと言うと、レンタルされて話を聞く依頼が結構あります。
「自分にはこういう傾向があって、皆と同じようにはできない」と悩まれている方が何人もいました。

例えば、「家庭生活をちゃんとして、夫として一家を支えていかなければいけない。自分の欲望やエゴは押し殺さないといけない」と僕は思い込んでいましたが、それを「向いていないと開き直ることはなぜ許されないのだろう?」と疑問が湧くようになりました。
明確な理由はよく分かりませんが、自分の中でそういう変化がありましたね。

 

―もし、20代の自分にアドバイスできるとしたらどんなことをアドバイスをしますか?

絶対に介入したくないです。1ミリも今の姿が狂うようなことはしたくないです。
自分はこうなりたかった、今の姿が一番良いです。
今までの人生で何1つ間違ったことはないと思っています。

これが駄目だった、あれも駄目だった…と自分の実感として分かったので、今の活動に集中できています。

 

―今の20代の若者についてはどうでしょうか?何かアドバイスでも…。

自分に対して何も言いたくない以上に、他人に対してはもっと言いたくありません。
他人の人生は他人の人生です。
僕が何かを言ってしまって、その結果死んでしまうこともあり得ます。
そうなると嫌な気持ちになるので何も言わないのが一番です。

 

―レンタルさんは将来の不安を感じることはありますか?

あえて考えないようにしているのはあります。
この活動を始める前に読んだ本の中で、「現代人は考える病に冒されている」という記述がありました。
自分でその病を治そうと思って、意図的に考えないようにしています。

考えないようにしていたら、面白いものに素直に従えて、こうした活動を始めることができたと思っています。

皆がプロ奢ラレヤーさんを面白いと思っている中で、自分だけが上手く真似できたのは、たぶん皆さんが「怖くて真似できない」と考えてしまったからじゃないかと思っています。

 

―レンタルさんにとって幸せとは?

楽しいことや、自分自身の糧になることをしないと幸せを感じられない人がいる中で、僕は嫌なことさえなければ幸せです。
だから、今は嫌なことが無いので、幸せですし、この仕事が向いているのだと思っています。

 

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