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「対人関係で疲弊していく若者たち」ー臨床心理が教える、自分や他人との向き合い方

寄稿 2019.12.05

年間2000件を超える相談を受け、最も自殺率の高い職業と言われる自衛隊の自殺予防などをしてきた臨床心理士の玉川真里さん

今回、「多くの社会人が抱える悩みや葛藤との向き合い方」について寄稿していただきました。

過去の相談をベースに、多くの人が抱える”悩み”や”葛藤”への対処法を解説しています。

 

悩みの9割は対人関係に起因

就職。夢を描き、楽しみでもあり不安でもある中、意気揚々と職場に行く。
しかし、時間の経過とともに、職場への足が重くなる・・・そんな経験はありませんか?

「出勤したくない・・・」
「上司から叱責されて人格否定された・・・」
「理想の職場と全く違うけど辞められない・・・」
など、さまざまな悩みが日々私のもとに寄せられます。

中には、これらの悩みが一時的なものではなくなり生きていくのさえも辛くなるケースも少なくありません。

一見それぞれ固有の原因があるように見えますが、実に悩みの原因は9割が対人関係に起因しているのです。

特に真面目で正義感が強い人ほど、ある種の落とし穴に落ちてしまいがちです。

 

この落とし穴とは、何でしょうか?

それは、対人関係からくる心のエネルギーの枯渇です。

 

他者思考の人が増えてきた

心が疲弊してくると、意欲や気力の低下、イライラや睡眠障害などの不調を引き起こすのです。

このような落とし穴に陥ってしまうには3つの原因があります。

1つ目は、他者から与えられた基準や正解に支配されてしまっていること。

2つ目は、自分がどうしたいかではなく、他者がどうして欲しいかを考えて行動を決めてしまっていること。

3つ目は、他者に合わせるのに疲れきってしまうことです。そこに「自分は、こうしたい」が抜けてしまっているのです。

 

これは学校教育のあり方にも原因があります。今までの教育では、何が正しいかを教え、それ以外は、間違っていると刷り込まれてしまいます。

本来、人は、十人十色と言われるように、多様な感性や考え方、見方を持っているものです。

しかし、団体生活の中では、ある一定のルールを決めて傷つけ合わないようにしないといけません。そのルールを守ることがいつしか正しいことと間違っていることを2極化してしまい、正しいと教えられた通りに動ける人が良いとされた教育がなされていたのです。

そこで、感じ方や考え方に違和感を持っても我慢して合わせることが上手になりすぎた結果、他者の基準で考え、それに支配され、相手がどうして欲しいかばかりに気が取られてしまう他者思考の人が増えてきました。

 

 

この他者思考は、大変、心のエネルギーを消耗する思考や行動です。

 

何せ、自分ではない他者が何を求めているのか見えないものを探りながら生きているのですから、私から見ると無駄なエネルギーを使いまくっているのです。

ある人は、こう言うし、他のある人は、こう言うし、一体どちらに合わせればいいのか・・・といった具合です。社会に出るとすぐに、このような答えの出ない世界に放り出されてしまうので、若い人たちが悩み、不安に思うのも仕方ないことです。

この他者思考から脱出するには、「自分はどうしたいか」「自分は何ができるか」「自分はどう決断するか」という自分を中心に思考し、決断し、行動するチカラを鍛えることが大切です。

そのために、どうすればいいかを様々なケースを基に紐解いていきましょう。

〇燃え尽きタイプの例ー出勤したくないAさんの例

Aさんは、学生時代よりまじめで友達付き合いなどにも特に苦労していない方でした。それは、何となく相手の希望や気持ちを汲むことができたためでした。

それまでは、あまりつまずくことがなかったAさんですが、会社の中では、課長と係長の上司間の仲が非常に悪く、指示がコロコロ変わってしまうので、仕事の効率も悪く、同僚の中でも不平不満が高まっていました。

そんな中でも、Aさんは、それぞれの気持ちを汲んで上手に立ち居振舞っていたのです。しかし、ある月曜日の朝から急に「仕事に行きたくない」「体調がすぐれない」と感じるようになりました。

Aさんは、周囲に気遣いしすぎたために、心のエネルギーを使い果たしてしまったのです。

体のエネルギーの消耗は血圧の上昇や心拍数の増加など数値として目にも見え、しんどさは周囲からもわかりやすいのですが、心のエネルギーは本人さえもわかりにくく、気づかぬうちに消耗してしまっていることがあります。本当は少しずつ疲れが溜まっているのですが、仕事などに集中していると気づきにくいものです。

車で例えると、目的地に急いで向かっているがために燃料計を見ておらず、燃料がなくなった時に気づくようなものです。

ですから、急に動けなくなる、朝が辛くなるといった心身の変化が起きてしまうのです。

これは、燃え尽き症候群とも言われるもので、しばらくは、休養などをとって心身のエネルギーを充電する必要があります。

そうならないためには、日頃から、自分はどうしたいか、どう感じているかを知っておくことが大切になります。
例えば、純粋に、今、したいことを書き出してみます。そうすることで、注意が自分に向き、本当はどうしたいのか気づくことができるのです。他には、上手に断る練習をするのもいいでしょう。まずは、周りに断り上手な人がいたら、じっくり観察してみて真似をしてみるところから始めるといいです。

これはモデリングと言ってカウンセリングの時にも使われている方法の1つです。
心のエネルギーが枯渇しきっているときは、休養をとるにも罪悪感や焦りを感じますから、そんなときは、今日も1日乗り越えたという、しるしをカレンダーに付けることによって自覚することをお勧めします。カレンダーに〇をつけるだけなのですが、カレンダーに〇が埋められるだけでも自己効力感が高まり、自己肯定感が養われ、それによって心のエネルギーが充電されるのです。

 

 

〇怒りや不満にエネルギーを消耗する例ー上司のパワハラに苦しんでいるBさん

Bさんは、真面目で正義感の強い人でしたが、1日に何度も上司に呼びつけられ、人格を否定されるような言動や長時間立たされたままで叱責されることの理不尽さに怒りさえも感じていました。他の同僚の中には、陰口をたたきながらも適当に仕事をする者もいましたが、Bさんは、いい仕事がしたい一心で、その上司からの理不尽な攻撃に耐えていたのです。

ここまでくると、先は見えますよね。

やはり、心のエネルギーが消耗されていくのですが、特に気をつけなければならないのは、怒りや不満などは、負のエネルギーが強く、エネルギーの消耗を早くします。そのため、このような場合は、エネルギーのコントロールが必要になります。

まずは、その場での瞬発的な怒りへの対処です。それには、脳に集まっている血流や神経を指先などの末梢神経に移すことで、一時的に回避することができます。

私はスリスリ法とかトントン法と言っていますが、左右それぞれの親指と人差し指、中指をこすり合わせるか交互につけたり離したりして影絵の狐のようにトントンするのです。それを左右交互に行います。丸い石をポケットに入れてそれをスリスリ触るのもいいでしょう。両手がふさがっているときは、足の指先をグーパーのように動かすのも効果的です。

 

まずは、一時的な怒りや不快感を末梢神経の運動によって注意をそらして和らげます。

次に溜めないことです。呼吸と同じで吸うばかりでは、生きられませんので吐き出すことが大切です。

しかし、ここでポイントなのは、他者に影響を与えないように自分で処理するのが望ましいということです。他者に影響を与えてしまうと思いもよらない結果や反撃に合うかもしれないからです。

私がお勧めしているのは、車の中やカラオケなど1人で大声を出せる空間で、言いたい放題の愚痴をいうことです。考えられる全ての汚い言葉を発してもOKです。吐き出すだけで案外スッキリして、冷静になり、客観的に思考や行動ができるようになります。

もう1つの方法は念込めゴミ箱シュートです。これは、嫌なことを紙に書くか、書かずとも嫌な気持ちを念としてしっかり込めながら紙を丸めて遠くに置いたゴミ箱へシュートするゲームです。例えば、自宅で家族の前では愚痴が書けない場合、念を込めギューと握ったゴミを、それを知らない家族や友人とともにゲーム感覚で入ったとか入らなかったとか競ってみるのもいいでしょう。

もう1つは、心理療法では、ロール・レタリング法として使われているお手紙療法です。まずは、許せない相手へ自分の思いを全てぶつける気持ちでお手紙を書き、封筒に入れて置いておきます。これは相手に出すものではなく、数時間から数日後に、今度は、相手の気持ちになりきって読んでみるのです。自分で書いた文章でも、視点を変えて読んでみると感覚が違って見えます。そして相手の気持ちになったままでお返事を書くのです。

そして、それを、また封筒に入れて時間を置き、今度は、今の自分のままで相手から来た手紙として読むというものです。こうすることで、相手を違った視点で見えるようになったり、距離をおくことが可能になったりします。

怒りや不満などへの対処には、すぐに反応せず、一時的に気を紛らわせ、距離をとってから色々な方法で吐き出すことが大切ということです。

 

 

〇認められたい気持ちが強すぎるタイプの例ー理想と現実のギャップに苦しむCさん

最後に理想と現実のギャップに苦しむCさんの例を紹介しましょう。

Cさんは、第1希望の大手銀行に入社でき、意気揚々と出勤したのですが、まずは、雑用や先輩へのお茶くみをさせられたことに不満を持ちながらも、一生懸命に1つずつ仕事を覚えていこうと必死でした。

先輩たちは、自分たちも通ってきた道のりなので、特に褒めることもなく、様々な雑用を頼んできました。同期入社の同僚は、特に不満を持つこともなく、「言われたことだけすればいいのだから楽だね」と言いながら楽しんでいる様子でした。

でも、Cさんはどうにも馴染めなかったのです。数ヶ月このような時期を過ごしていたCさんですが、自分がやりたかったことと違うと考えはじめ、毎日の出勤が億劫になってきました。退職も考えたようですが、すぐに辞めたら負けてしまう気がして辞めることもできませんでした。思うような仕事もできず、転職をすることもできない状態で相談に来られたCさん。

私からは、どのような夢を持っていたのか、どんな自分になりたいかをお聞きしました。

Cさんは、たくさんの企業が集まる就職相談のイベントで、とても親切で笑顔の素敵な人が勧めてくれた大手銀行へ行きたいと思い、入社したとのこと。その人のようになりたい、認められたいと思っていたそうです。

しかし、現実は、そうではなかったことから、不満をもつようになったのです。

冷静に考えれば、下積みの時期を経て、自分の担当業務が与えられ少しずつ慣れていくものですが、想像力と心の準備を欠いてしまったがために、雑用などに対して、前向きに取り組むことができず、認められない仕事へ不満がつのったのです。

このような理想と現実のギャップに悩まないためには、あらかじめ、バックキャスティングで目標を立てることが大切です。

バックキャスティングというのは、今の自分にはとうてい無理な夢でも具体的にしっかりと思い浮かべ、そのために必要なことは何かというのを段階を追って考えていき、最後に、今できることは何かを見つける方法です。

また、具体的な夢がすぐには見つからない場合はミラクル・クエスチョンと言って、「もし自分の願いが全て叶ったとしたら今の自分はどうしている?」と自問自答する方法を使って、夢や目標を探してみると良いでしょう。

 

このように誰かから褒められる事や認められることを目標にするのではなく、徹底的に自分と向き合って、なりたい自分を意識して、そのために必要なことを考え、今できることを実行すれば、現実にがっかりするよりも今、すべきことが見つかり前に進んでいけるのです。

時には、自分に本当に合っていない職場の場合やその上司の下では本当に成長できず、いい仕事ができない場合もあるのですから、辞める、転職するというのもいいのです。

これからどうしていくかの決定権は常に自分にあることを覚えておきましょう。

また、行動を決める場合にも、「やる」・「やらない」の2択ではなく「やる」・「やらない」・「今はやらない(保留)」を作っておくことで柔軟性が生まれます。

そして、行動するときは、それが正解だと思い込む前に自分に合っているかどうか「行動実験」として試してみるということも大切です。

そうすることで、今の自分にあった行動や思考ができるようになり、他者から振り回されたり支配されたりするのを防ぐことができるのです。自分のプロは自分でしかありません。

 

あなたの取扱説明書は、あなた自身が作っていけばいいのです。正解はあなたが作るものですから。

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